第37話 頑健なる巨人 | |
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第38話 合流 打倒シーディスへ | |
第39話 象と蟻《あり》 | |
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第38話「とりあえず、アレをどうにかしようと思うんだがどうだ?」 零児はアーネスカ、アマロリットの2人と共に、シェヴァに騎乗しながら、そう提案した。 「同感ですね。クロウギーンの群は私達より、各騎士達の方々が片づけてくれているみたいですし……」 ネルは巨大なる亜人シーディスに視線を向ける。シーディスを打倒しようと提案したのはバゼルだ。 火山竜《ヴォルケイス・ドラゴン》の亜人、ラーグとの戦闘ですっかり忘れていたが、今この町を襲っている脅威はクロウギーンよりシーディスの方が大きい。 「だな……。クロウギーンは騎士達に任せるとしよう。アレに暴れられたら、アルテノスは本当に壊滅する。どうにかして、奴を潰さなければ……だが、お前達はそれでいいのか?」 バゼルは倒すべき標的を定めつつも、ネルとシャロンに問うた。 「お前達は基本的に部外者だが、それでも……俺達と共に戦ってくれるのか?」 「零児、基本的にあんたは部外者よ。アレとまともにやりあって生き残れる保証はないわ。それでも戦ってくれるの?」 アマロリットはシーディスを倒す決意を固めながら、零児に問うた。 「ここにやってきて1ヶ月……。俺は自分がどういう生き方をするべきか……どういう戦いをするべきなのかを考えていた。今も分からないままだ。だが、戦うことから背を向けることはできない。敵に背中を見せたところで、何の解決にもならないだろうからな。 それに、ここまで関わってるんだ。今更それはねぇだろう? ここで逃げたら、男が廃《すた》るさ……」 「あんたは亜人の命を奪うことに躊躇《ちゅうちょ》しすぎている。中途半端な覚悟で戦って、死なれたくないのよ」 アマロリットは零児に言い聞かせる。その目は、零児の覚悟の程を試しているかのようだ。 零児はアマロリットの瞳をまっすぐに見据えた。 「アマロさんの気持ちはありがたい。けど、退く気はない。そりゃあ、今すぐに亜人を殺す覚悟を固めろって言われたら難しいさ。だけど、ここでのルールには従うつもりだ……」 「……」 アマロリットは人間社会を守りながら亜人を受け入れるために、命を奪わなければならない亜人もいると零児に話した。 それが正しいとは零児は思わない。しかし、そうする必要があることもわかっている。 そんな状況の中にあって、自分はどう行動するべきなのか。零児はその答えをはっきりさせたいと思う。そのためには、戦いに身を置く以外にない。 零児の今の答えは、『戦う』ということだった。 「わかったわ。邪魔にだけはなるんじゃないわよ?」 「ああ」 零児シェヴァに指示をだす。向かうは巨大な亜人、シーディス。 ――これ以上、奴らの好きにはさせないさ! 「これ以上、あの人達を好きにさせてはおけない……!」 バゼルの問いに、シャロンは強い決意をした瞳でそう答えた。 「シャロンちゃん?」 シャロンはラーグと戦っている間中、そして戦いが終わった今この瞬間も考えていた。 なにが正しくて、なにが間違っているのか。 だけど、思う。 答えなんてきっとないのではないかと。 「私には、何が正しいのかなんて、わからないけど……。あの人達だけは倒さなきゃいけないと思う! だから……私は戦います! 私は逃げません。きっと、レイジもそういう……」 「……」 バゼルは少々面食らっていた。バゼルはシャロンのことを子供だと思って心のどこかで戦力として考えていなかった。 しかし、これほどはっきりと戦う決意があるのならば、1人の戦士として見るべきだと判断した。 「同感だね」 ネルが言う。彼女もまた、シャロンの言葉に賛同しているようだ。 「もう、無関係って訳にもいかないし、最後まで付き合うよ。バゼルさん」 「感謝する。お前達はここに来る前までは、零児と共に旅をしてきたんだったな?」 「ええ……そうだけど、それがどうかした?」 「いや……」 バゼルは薄く笑みを浮かべた。 「奴は仲間に恵まれたなと……思っただけだ」 バゼルがシーディスを睨む。 「必ず生きて帰るぞ!!」 ネルとシャロンは頷き、そしてバゼルに続いた。 「とはいえ、どう戦う? あのデカさじゃ、闇雲に攻撃しても勝ち目があるとは思えないわよ?」 巨大な竜《ドラゴン》の亜人シーディスへ向かっていたシェヴァの上で、アーネスカがアマロリットと零児にそう問いかける。 「攻撃手段を奪いながら確実に倒すなら頭、動きを奪うなら足を狙うのが常套《じょうとう》ね……」 アマロリットがそれに答える。確かにあの巨体さを倒すには効率的にダメージを与える必要がある。アーネスカの言う通り、闇雲に攻撃しても有効な一手になるとはいい難い。 「前回の空中戦で、奴は飛行できない。空を飛び立たれる心配はないだろうから、足を狙って、動きを封じた方がいいと思うがな。場合によっては殺す必要もないだろうし……」 「だめよ。あいつは確実に殺すわ」 「!」 零児は顔をしかめた。アマロリットの反応は十分予想できていたとはいえ、やはり殺すという言葉を平気で言われるといい気分はしない。 「あんなのを生きたままにしておくことはできない。あまりにも大きすぎる。あんなのを生きたまま確保する手段なんかないし、あったとしても生かしておくだけでどれだけの食料が必要になるのか、考えたくないわ」 「……」 零児には何も反論できない。 シーディスを生かしたまま確保する。それがどれだけ困難なのか零児だって考えたくない。それに確保した後に直面するであろう様々な難題を解決する策も、零児にはない。 であるならば、零児に反論することはできない。 「わかってるわね? 零児」 「ああ……」 零児は頷いた。そうせざるを得ない。 その時だった。 『グ……グォォォォォォォウ!!』 突如、シェヴァが吠えた。そして、シーディスがいる進行方向とは別の方向へと急降下を始めた。 「ど、どうしたんだシェヴァ!?」 シェヴァは零児の言葉を無視して、零児達が意図した方向とは別の方向へ向かう。 急速に地面が近づいていく。 「どうしちゃったっていうの!?」 「わからん! シェヴァ、どこへ行こうっていうんだ!?」 『グォオオオオウ!!』 「……? この匂いは……」 シーディスの元へ向かっていたバゼルは突然立ち止まった。 「どうしたの?」 「気になることがある。あのデカブツは後回しだ。ついてこい」 「あ、うん」 ネルとシャロンはバゼルの後を追う。亜人ほど鼻の利かない2人にはバゼルの意図はわからない。 ――何があったというのだ……ギン! シェヴァの突然の進路変更によって、零児達はアルテノスの大通りの前に来ていた。 シェヴァが地面に降り立った理由。それは、すぐにわかった。 アルトネールと行動を共にしていた亜人、ギン。彼が倒れていたからだ。シェヴァは無数の血の匂いが漂う空から、彼の匂いを嗅ぎ取り、零児達に知らせるために地面に降り立ったのだ。 「ギン! ギン! しっかりなさい!」 アマロリットがギンの両肩を掴みゆする。 「う、うう……」 アマロリットの問いかけによって、ギンがゆっくりと目を開けた。 「ア、アマロか……」 「何があったの!? あんたがやられるなんて……!」 「あ、ああ……。この事態を引き起こした奴らに……とんでもない奴が紛れ込んでやがる。そいつと一戦交えたんだが……このザマだ……」 「あたし達の知らない敵が、他にもいるってことね……」 「そういうことらしいな……」 零児は静かにそう呟いた。 「ギン!」 その時、零児達以外の声が聞こえた。 ギンの名を呼んだのは、バゼルだった。 「バゼル、ネル、シャロン! 3人とも無事だったんだな!」 「クロガネ君達こそ」 「みんな無事で何より」 「ギンの血の匂いをたどってきたんだ。ギンほどの力を持つ奴が、そう簡単にやられるはずがない」 3人がそれぞれ口を開く。 バゼルはゆっくりと、ギンの横に立ち、ギンに肩を貸す。 「立てるか?」 「ああ……それよりもお前等、聞け。俺達の敵の中に、とんでもなく硬い奴がいる。名前は知らねぇが、俺やバゼルみたいな大男だ。アルトネールと俺とで、それぞれ別の敵と戦う予定だったんだが、俺はそいつにやられてこのザマってわけだ……」 「とんでもなく硬い?」 ギンの言い分はやや抽象的だ。詳しい情報を聞くべく、さらに問いかける。 「1人で立てる……。ポロシャツなんぞを着た、多分30歳前後の男だ。俺はそいつと戦ってやられた。話を聞く限り、レジーの兄貴らしい……」 「これではっきりしたな……」 そこで零児が口を開く。 バゼルは、何がだ? と問う。 「俺達の敵は……」 零児は視線をシーディスに向ける。 「アレと、ギンが戦った大男と、そして……レジーの3人!」 「そういうことになるわね……」 アーネスカが賛同の意を示す。バゼルはその意見に異を唱えた。 「ちょっと待て! レジーは、リベアルタワーで死んだはずではなかったのか!?」 「いや、生きているらしい……信じられないけどな……」 「なんだと……」 バゼルが絶句する。あの時、あの場にいた誰もが、レジーの死を確認している。とても生きているだなんて考えられない。 「不死身ってこと?」 ネルが思わず口を開く。誰もがそう考えずにはいられなかった。 「どういうことなのかは俺にもよくわからない。だが、倒すしかないだろう……アレも含めてな……」 零児は再びシーディスに視線を向けた、シーディスは広大なアルテノスの町にレーザーブレスを放ったり、両腕を必死になって振るっている。 「ところで、奴はさっきから何と戦っているんだ? |
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